担当科目(学類)

生体の構造・人体構造学演習

骨格、筋肉、神経、内臓・・・理学療法士になるためには、人体のことをよく知らなければなりません。人体の構造を熟知することによって、理学療法という学問そして治療手技を身につける、そのとば口に辿り着くことが出来るんです。

一般的には「解剖学」と呼ばれている分野ですが、私たちの所では「生体の構造」「人体構造学演習」という呼び方をしています。理由は聞かないで下さい。いろいろ大人の事情があるんです・・・。二つの科目に分かれているのは、大学の講義が1年間を二分して前期開講、後期開講としているためで、他意はありません。1年かけてみっちり人体の構造について学びます。

具体的には、骨なら全身の総ての骨の名前と構造、一個一個の骨の各部の名前をすべて覚えなければなりません。筋肉なら全身のすべての筋肉の名前と構造、付着部位(起始、停止という言い方をします)、筋肉を動かす神経の名前(神経支配と言います)等をひたすら覚えるのです。けっこう大変だと思います。

「演習」って何?と思われる方もいるでしょうが、私の所では普通に講義をしています。ですから「人体構造学演習」の「演習」という言葉は必要ないといえば必要ないんですが、諸般の事情により外せません。ちなみにこの「演習」の付く科目、先生によっては「実習」に近い運用をされている場合もあります。

人体構造学実習

「実習」とは文字通り、実際にやってみる科目です。「人体構造学実習」というからには実際にご遺体の解剖をするのかと思われるかも知れませんが、そんなことはありません。理学療法士にとって関連の深い骨格、筋肉、神経について、人体材料の標本や模型などに実際に触れて学ぶ、そんな実習です。こちらも1年間かけてじっくり行います。 解剖学実習室
解剖学実習室です。

カラー人体解剖学 プロメテウス解剖学アトラス 分担解剖学 理学療法士・作業療法士・言語聴覚士のための解剖学

これら↑は私が推奨している解剖学の教科書です。実際の講義や実習では西村書店から出ている「カラー人体解剖学」という本を中心的に使っており推奨していますが、学生さんは必ずこの「カラー人体解剖学」という本を買わなければならないというわけでもありません。このあたり、高校までの勉強の仕方とまったく異なったところであり、なかなか正確に伝わりにくいかも知れませんが、大学の勉強というものには(少なくとも私の場合はですが)決まった教科書なり決まった勉強なり、そういうものは原則ありません(繰り返しますが、もちろん大学や先生によって様々です)。

高校までの勉強では、学校(あるいは先生)が指定した教科書があり、その内容をなぞる様にして勉強してきたことと思います。「教科書のXXページを開いて、はいホソ君、そこ読み上げなさい」とか「今度の実力テストは、教科書のXXページからYYページまでが範囲です」とか、そんなノリだったと思います。

小学校、中学校、高校で教えられてきた内容、教え方は、文部科学省が示す学習指導要領(←リンク先はWikipediaです)によって定められていて、概ね日本全国どこでも同様、一様ということになっています。教科書もやはり教科用図書検定(Wikipedia)という制度によって、どこの出版社の教科書でも一定の基準の中に収まるように書かれています。はっきり言ってしまえば、国が決めた内容を国が決めたやり方で教えられるわけです。

大学では事情が違います。例えば解剖学という科目を教える場合、その教え方、教えられる内容は解剖学の先生にある程度任されています。もちろんまったく自由というわけではありませんが、上記のように特定の教科書を指定しないとかは無問題です。

実際のところ、「カラー人体解剖学」は内容のバランスの良さと価格で、「プロメテウス解剖学アトラス」は内容の充実ぶりで、「分担解剖学」は定番ということで、「理学療法士・作業療法士・言語聴覚士のための解剖学」はど真ん中ということで推奨し、中でもバランスと価格という点を評価して「カラー人体解剖学」を中心的に利用し推奨していますが、できれば学生さんには複数の種類の本、理想的には4冊全部に目を通して欲しいとも思っています。


基礎病態学

一般的には「病理学」と呼ばれる分野です。「病理学」と言われても馴染みのない方が多いかと思いますが、辞書で調べてみると「病気の自然経過・病気の原因を明らかにし、病変の成り立ちを究め、その結果生じた形態学的変化や機能的障害を解明する科学。」とか説明されてます。要するに医学における科学の部分でしょうか。以下に学生さんに配布する講義プリントの冒頭を引用します。

病理学とは、病気の本態を理解し、研究する科学であり、医学そのものとも言い得る。病気とは、身体が正常状態から逸脱したものとして捉えられ、この逸脱の解析が病理学の本質となる。現代の病理学の方法論の主体は、肉眼的あるいは組織レベルでの形態の変化を解析する、病理形態学にある。

しかし、病理学の定義、目的から明らかなように、方法論を形態学に限定することなく、免疫学、分子生物学、生化学など、関連する医学、科学のあらゆる方法論を取り入れることで、現代の病理学は成り立ている。また一方で病理学は、病院など医療の現場でも決定的に重要な働きをしている。整備された総合病院には外科病理学の専門家である病理医が配備され、病理学的確定診断を行うとともに、治療方針の決定、治療効果の判定などにも参画している。このように、病理学は基礎医学から臨床医学まで、医学のあらゆる分野と深く関係し、その基盤となっている。

病理学という日本語は、病気を理解する学問と解釈できるが、もともとはPathlogie(英語はpathology)という言葉の訳語として明治時代に作られたものである。pathologyという言葉は、pathosという言葉とlogosという言葉の合わさったものであり、それぞれの意味は、「生きることの悲哀、苦悩」「言語、論理、学問」となる。つまり病理学とは、広い意味での人々の苦痛全般を扱う学問として発達してきたものが、医学という学問が整備されていく中、病気の原因、病気で生じてくる変化、経過を、科学的に観察し研究する学問として位置づけられて来たということになる。

なんだかむつかしそうに思われるかも知れませんが、一例、風邪を引くとはどういうことなのか、くしゃみや咳や発熱はどうしておこるのか、どのようにして風邪は治るのか、といったことを学ぶ、そんな科目です。といいつつ話はあらぬ方向へとさまようことが多いです。マイナスイオンとは何なのかとか、がん検診は果たして有効なのかとか、毎年のように講義内容が変わったりします。

運動器系病理学

上記「基礎病態学」に続いて、より理学療法士にとって重要な、骨、関節、神経、筋肉の病気に特化した病理学を教えています。ちょっと自慢げに言うと、運動器の病理学という分野はとても手薄で研究者も少なく、教科書として使える本もほぼありません。この講義でしか知ることの出来ない知識なんていうのもあるかもしれません。

以下に学生さんに配る講義プリントから変形性関節症の部分を引用しておきます。

変形性関節症 osteoarthrosis, OA or arthrosis deformans

概念
局所性の関節の変性、破壊による、疼痛、運動障害。
一次性は主に加齢現象あるいは過加重によると考えられる。二次性は感染、外傷などから続発。
頻度:膝関節にもっとも多く、40歳以上で20%以上、X線学的には成人の半数以上

病理:
一次病変:関節軟骨の変化
1. 軟骨細胞および滑膜細胞からの基質分解酵素 proteinases分泌
HIFα(Hypoxic Inducible Factor)→VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor)→MMPs(Matrix MetalloProteinases)↑ + TIMPs(Tissue Inhibitor of MetalloProteinases)↓
2.軟骨基質の主体であるproteoglycansの解重合
3.軟骨表面の細線維化 fibrillation、小亀裂 splitting形成
4.亀裂 fissure 形成、深部および辺縁部で軟骨細胞増殖
5.荷重部では軟骨が摩耗し、象牙化 eburnation
6.辺縁部の軟骨増生は骨化して、骨棘 osteophyteを形成
二次病変:滑膜の変化
滑膜の絨毛状増生、滑膜内軟骨形成、関節遊離体形成、 MMP分泌
多くの場合、滑膜には炎症細胞浸潤はほとんどない(RAとの組織学的鑑別点)

実際の講義ではもっと突っ込んだ内容になります。

ロビンス基礎病理学 Robbins Basic Pathology

これ↑は病理学の推奨教科書です。学生さんには「これ以外の教科書でも良いですよ。何でも良いから一冊買ってね」と言ってます。が、とりあえずお勧めはこの2冊です・・・というか、これって基本的に同じものなんです。「ロビンス基礎病理学」は「Robbins Basic Pathology」の日本語訳です。もうちょっと正確に言うと、前者は原著の第七版の翻訳、後者はその後に出た第八版です。翻訳と原著ではお値段がだいぶ違います。

お財布に優しくて中身もより新しい原著を強く勧めたいところですね。平易な英語で書かれてますので、医学英語の読解力の練習にも向いていると思います。残念ながら(というかやむを得ないのですが)運動器についての記述は薄いです。


卒業研究

大学のお仕事と言えば、まずは教育と研究ということになりますが、大学というところでは教育と研究が不可分の関係になります。理学療法学専攻を名乗ってるんですから、教育と言えば理学療法士の養成ということになりますが、同時に研究者としての理学療法士という大学ならではの特典(?)がついてきます。

というわけで卒業研究です。カリキュラム上は4年後期に(実際には3年後期あたりから)、各先生の下に就いて研究のやり方、論文の書き方、プレゼンテーションの仕方を学びます。私の研究室を選んだ学生さんには、病理組織学的方法論による研究をしてもらっています(詳細は研究内容についてを参照)。それと、これは私の所だけかも知れませんが、無事卒業後、社会人になってから最初の理学療法学術大会で、卒業研究の内容を元に学会発表してもらってます。実際の様子は第44回理学療法学術大会に行って来ましたをクリックしてみて下さい。


担当科目(大学院)

理学療法学研究方法論

オムニバス形式で開講されています。「研究方法論」といわれても何だか分からないかも知れませんが、実際私が担当するコマに関しては、ホントに何が何だか分からない内容になってるかもしれません。せっかく大学院の講義なんだからということで、それなりに張り切ってというか、トンデモというと語弊がありますか、けっこうグレーゾーン的な、境界領域の話なんかしてしまってますね。

というわけで講義内容の詳細を書くのも憚られるんですが、そういう方面(ってどういう方面?)に関心のある方は、当大学院の門を叩いてみませんか。

障害評価学特論・障害評価学演習・障害評価学課題研究

障害評価学特講・障害評価学特講演習・障害評価学特別研究

こちらも講義はオムニバスです。詳細については研究内容についてを見てみてくださいませ。



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